古生物学者メアリー・アニングを題材にした映画『Ammonite』

いろいろ

Smithsonian Magazineのメールマガジンで次の記事が紹介されていました。

‘Ammonite’ Is Historical Fan Fiction About the World’s First Great Fossil Hunter

恐竜の化石に興味のある人なら耳にしたことがある名前だと思いますが、メアリー・アニング(Mary Anning)はイギリスの初期の化石採集者(fossil hunter)&古生物学者(paleontologist)です。イギリス南西部の海岸の町ライム・レジス(Lyme Regis)周辺の海岸でイクチオサウルスやプレシオサウルス、翼竜などの化石を発見した功績で知られています。そのアニングの映画Ammonite『アンモナイト(邦題未定)』が製作されたようです。

記事に予告編(trailer)が掲載されていましたので、まずはそれを見ました。こちらがそうです。


あれ、思っていたのと違いました。伝記のような感じの映画と想像したのですが、どうやらロマンス、しかも女性同士の恋愛をテーマにしているようです。

記事を読んでいきます。

The tale, directed by British filmmaker Francis Lee, follows Anning (Kate Winslet) as she reluctantly brings a young woman named Charlotte Murchison (Saoirse Ronan) along on some fossil-hunting trips in the hope that the vigorous activity will help her new apprentice’s illness. But the two find more than fossils. In Lee’s telling, Anning and Murchison begin an intense affair that seems to have no room to breathe under the cultural strictures of Victorian England.

In other words, this is paleo fanfic.

「アニングはシャーロット・マーチソンという病弱な若い女性を、精力的な活動が彼女の病気の助けになるのではと期待され、気が進まないながらも化石採集に連れて行く。しかし二人は化石以上のものを見出す。ヴィクトリア朝イングランドの文化的制約の下では大っぴらにできないような激しい情事を始める。

言い換えると、これは昔の話をベースにしたフィクションなのである。」

だいたいこのような意味なのですが、いくらか表現を見ていきましょう。
“no room to breathe”は直訳すると「呼吸するスペースがない」ですが、「(精神的)余裕がない」という意味もあります。上記では文脈を考えて「大っぴらにできない」としました。
“paleo fanfic”はさっぱりわからないので、それぞれの単語を調べました。”paleo”は「古い、古代の」という意味の接頭辞です。”paleontology”に使われていますね。Wikitionaryによるとpaleontologyはpaleo- (“ancient”) +‎ onto- (“being”) +‎ -logy (“study”)だそうです。ちなみにontologyで「(哲学の)存在学」となります。
“fanfic”は”fan fiction”の略なんですね。ロングマン現代英英辞典によると”stories, usually on the Internet, written by fans of a TV series, film, book etc (=people who like it a lot) about the characters that appear in it”とあります。要するにファンによる二次創作作品です。
“This is fiction.(これはフィクションです)”と言えば済むところを、”This is paleo fanfic.”という表現で「古生物学者を題材にした映画監督によるフィクションです」というニュアンスを色濃く出したのです。面白い表現ですね。

記事によるとアニングとマーチソンは友人でしたが、恋愛的な結びつきがあった証拠はありません。そのため女性同士の恋愛や歴史的事実の不正確性に怒っている人もいるようです。

この映画を次のように説明しているのがわかりやすいです。

Ammoniteis to paleontology what The Untouchables is to Prohibition or Raiders of the Lost Ark is to archaeology.

ここでは高校英語で学習する構文の一つが使われています。”A is to B what C is to D(AとBの関係はCとDの関係と同じである)”です。「『アンモナイト』と古生物学の関係は、『アンタッチャブル』と禁酒法や『レイダース/失われたアーク』と考古学の関係と同じである。」歴史的、学術的正確性は横に置いて、それぞれの題材をベースにしたフィクションとして楽しみましょうということです。『アンモナイト』を観るにあたりこのことを頭に入れておく必要があるようです。

この話題を取り上げた理由ですが、2018年の夏に映画の舞台であるライム・レジスを訪れたからです。化石採集も隣町のチャーマス(Charmouth)で体験しました。こちらがその時の様子です。

落ちているのを探すという感じです。ハンマーは必要ありません。

1時間での成果です。

持って帰れないくらい巨大な化石もありました。

映画Ammoniteはいつ公開は分かりませんが、自身のfossil huntingを思い出しながら鑑賞したいです。

【追記】
Lonely Planetの記事でもAmmoniteが紹介されていました。ただ、こちらはLonely Planetらしく映画の舞台となったジュラシック・コースト(the Jurassic Coast)について主に触れられています。
The movie ‘Ammonite’ will show off the UK’s stunning Jurassic Coast

【追追記】
邦題が『アンモナイトの目覚め』で2021年4月9日公開となったようです。IMDbのレートでは6.5/10ですね。

【さらに追記】
おそらくイギリスでの公開に合わせてNational Geographicでメアリー・アニングの記事が掲載されました。こちらも当ブログの記事「またメアリー・アニング記事-映画『アンモナイトの目覚め』記念」で紹介しています。

Comments

  1. […] ですので小見出しは「メアリー・アニングと彼女の最も重要な恐竜の発見は称賛されていないけれども、現在彼女の伝説はイングランド南西部に旅行者を引き寄せている」となります。私も引き寄せらた一人です(詳しくは「古生物学者メアリー・アニングを題材にした映画『Ammonite』」)。 […]